38号:特集 藤本水産株式会社

淡路市育波で主にちりめんなどの水産加工を営む藤本水産㈱。
事業承継後、商工会の支援を受けて取り組んだ事業再構築補助金の活用事例をご紹介します。

藤本水産株式会社

【住所】
 兵庫県淡路市育波387
【電話番号】
 0799-84-1126

<ホームページ>

全く違う業種から水産加工業へ

 藤本水産株式会社は〝「サ〟(カネサ)の屋号で、昭和10年に淡路市育波にて産声を上げた。
 創業当初からいかなごやしらす・ちりめんの加工を手掛けており、平成5年に法人化。
 今では製造直売も手掛けている。
 社長である山下雅令さんは、元々は岡山県出身。
 先代社長である充茂さんの長女・さやかさんと結婚後、淡路島に越してきた。
 前職では国内・海外ブランドのカバンの仕入・販売を行っており、水産加工業とは縁がなかったという。
 28歳の時に入社し、水産加工の仕事を覚えつつ、10年以上の時間をかけて先代から経営も学び、令和4年11月に代表取締役に就任した。
 「これまでやったことがないことばかりだったので、周りに訊いたり見たりしながら自分の中に落とし込むのに時間がかかりました」と山下さんは当時を振り返った。

▲代表取締役の雅令さんと奥様のさやかさん

お客様のニーズに応える差別化戦略

  「先代が辣腕をふるっていた頃は、『作れば売れる』時代でした。少子高齢化の今、消費者ニーズに応えることが事業者に求められる時代に変わってきていると感じます」と山下さんは話す。
 先代と一緒に取引先などを回る中で、消費者の食の好みや考え方などの変化を肌で感じるようになったそう。
 特に、関西圏ではこれまで上乾ちりめんが中心だったが、近年は釜揚げしらすの需要が伸びているという。
 従来の釜揚げしらすを製造しているだけでは他社との差別化は難しい。
 そこで、チルド釜揚げしらすの開発を行うとともに、漁業と水産加工業を兼業している漁師から加工業を引き継ぎ、漁師と専属契約を結ぶことで原材料の安定供給と新たなサプライチェーンの構築を実現させる、新分野への事業再構築に乗り出した。

▲ちりめんの天日干し

▲釜揚げしらす

可能性が広がる商工会の支援

 チルド釜揚げしらすは、炊いて冷蔵したものをすぐに販売するため、仕入値の変動が激しく、在庫調整が難しい上、混入した雑魚の選別に手間がかかるなど、製造者側の苦労は大きい。
 しかし、味が濃く、つるりとした食感がお客様には大好評だ。
 このチルド釜揚げしらすを製造するのに欠かせない自動窯および冷却コンベアを事業再構築補助金で導入。
 さらに、必要な電力を確保するための発電機も事業承継支援事業費補助金を活用して設置した。
 「申請はとても大変だったので、商工会の支援がなければ取り組めていなかったです。次の設備投資も考えられるようになり、新たな取組の可能性が広がりました」
 商工会の販路開拓支援で展示会に出展した経験もある。
 普段の仕事の中では出会うことがない、異なるジャンルの事業者からオファーがあり、現在も縁が続いている。
 「すぐに売上に繋がるものではないですが、思ってもみなかったところからお声がかかり、商品の可能性が広がったのには驚きました」

▲事業再構築補助金で導入した設備

▲広々とした直売所には、釜揚げしらす以外にもさまざまな海産物がズラリ

次の世代に引き継ぐためブランド力を高めたい

 これまでは卸売が中心だったため、どれだけ良い商品を作っても自社の名前が表にでることがなく、悔しい思いがあったという山下さん。
 これからは現在の販路も大切に守りつつ、北淡・一宮への観光客の増加を追い風に製造直売にも力を入れていきたいと語る。
 「先々代、先代が築きあげた〝「サ〟(カネサ)の屋号を、次の世代につなげられるよう、僕の代で藤本水産株式会社のブランド力をさらに高めて、しっかりとした地盤をつくっていきたいです」
 変化が目まぐるしい時代の中、山下さんの模索は続いていく。


(取材:2024年6月)